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月読幻想
くろい マリア
黒い聖母

世界征服を狙う東嶽大帝が、強大な呪力を持つ魔族・バンパネラ一族を手中にしようともくろんだ事から物語は始まる。
500年前から冬眠中の一族を目覚めさせ、従わせるにはある人物が必要だった。
それはバンパネラ・クラウンの妹姫、マリア。
『右手に光、左手に暗黒、両の魂を持つ聖母。光に導かれし時も、闇に下りし時も、一族はこれに従う』
バンパネラ一族に伝わる預言書に記された聖母こそ、マリアだったのである。
東嶽大帝は悪魔・グルントーヘルを召還し、世界のどこかに転生しているはずの彼女を手に入れるよう命じた。



マリアが転生していた場所は、彼女とは何の関係もなく暮らしている他人の体の「中」だった。
マリアは、人間の魂に同化して一生を送る状態、言わば宿木(やどりぎ)になっていたのだ。
ひとつの肉体の中に2人分の魂が同居している状態では、宿主の魂を殺さない限り、マリアが目覚めることはない。
そして、マリアの宿主となっているのは、「女禍」と言う映画を自主制作で作ることを呼びかけ、監督を務めた女性。映画が完成した後でも、協力した鬼太郎たちと制作メンバーから、笠井監督と呼ばれお母さんと慕われている人であった。
宿主の精神を完全に破壊しマリアを「闇に下らせる」ために、グルントーヘルは「女禍」に目をつけていた。
信じることが原動力と言う環境の中に、針のように埋め込まれた「不信」。
嘘、裏切り、無責任…「女禍」の制作中に次々と仕組まれた、トラブルと言う名の凶器が、笠井監督の魂に無数の傷を刻んでいった。

その傷は、マリア自身の傷でもあった。
生前マリアは、魔力を使って人間の子供を救ったために魔女として捕らえられ、処刑されていたのだ。
戒めを解く力を持ちながら、敢えて人間に捕らえられることに甘んじたマリア。
「人間と魔族は必ず分かり合える」
狂気に駆られた人間たちの耳に、その訴えは届かない。
マリアは人間不信と絶望の淵で踏みとどまり、自らの死をもって最後のメッセージを送った。
人間と魔族はきっと分かり合える。どちらも同じ命、殺せば死んでしまう生き物同士なのだから…と。



笠井監督に刻まれた傷の痛みは、宿木であるマリアにも伝わっていた。深く信じそして裏切られた者だけが知る、忘れることの出来ない痛み。
「どうすれば信じられると言うの?人間が優しい生き物だと」
二つの魂が絶望に沈んだとき、黒い聖母が誕生する。
グルントーヘルは周到な罠を幾重にも仕掛け、ついに笠井監督を誘拐、彼女の守護霊のクラウン・ベルを拉致した。
さらに、「女禍」に関わった全ての者たちから、「女禍」と「笠井監督」の記憶を消し去ってしまった。
クラウン・ベルからの心語を受け取り異変に気づいた鬼太郎は、親友・悪魔くんこと埋れ木真吾と十二使徒の協力を得て、仲間たちと共に救出に向かう。
共に育んだ想い、つないだ手の温かさが、紛れもない真実であったことを守るために。





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―時満ちて、その聖なる眠りに終止符を打つ者、
右手に光、左手に暗黒、両の魂を持つ聖母

光に導かれし時も、闇に下りし時も、一族はこれに従う―