祐子を警護する夏木の前に、10歳くらいの女の子の姿をした霊が現れた。
「お前が噂のメリーさんか?」
自分の行く手を阻む夏木に、幼くあからさまな敵意をむき出しにする女の子。
「私、私のことをいじめる人みんな嫌い。みんな消えちゃえばいいんだわ!」
外見とは裏腹に炎さえも寄せつけず、その激しい否定のエネルギーは、針や刃物となって夏木に降り注いだ。
身構えた夏木の前に立ちはだかった小さな影がひとつ。
事件の手がかりをひとつひとつ追いかけ、ようやく悲しい確信に追いついた鬼太郎だった。
「君はアイコちゃんだろう?僕だ鬼太郎だよ、僕は君のこと覚えているよ!」
必死に呼びかける鬼太郎に激しく動揺した女の子は、鬼太郎など知らないと言い捨て、鋭利な破片を浴びせて闇に消える。
驚き気遣う夏木に、鬼太郎は告げた。
「僕はアイコちゃんを探します、それまで彼女の生霊をなんとか押さえて下さい」
遠い昔鬼太郎と遊んだ少女は、生きながら人ならぬ姿に成り果てていたのだ。



アイコは、かつて鬼太郎の森によく遊びに来ていた、おとなしく心優しい性格の少女。
そんな彼女の残していった思い出の中にあった言葉が、鬼太郎を「現在の」アイコの元に導いた。
−私には北斗七星の形をした穴があって、それを同い年の人に押さえていてもらわないと幸せになれないの−
やっと探し出したアイコの体は、病院のベッドの上にあった。
失敗や挫折など、生活の中の思い通りにならないことを「北斗七星」のせいだと思い込み、解決法を呪詛(おまじない)に求めたアイコは、その時飲んだ薬物の影響で植物人間となっていたのだった。
意識を失って既に数年経った体は、もし目を覚ましたとしても以前と同じ状態には戻らない。
枯れ枝のように横たわるアイコを前に絶句する鬼太郎に、ディオが声をかけた。
「王様から連絡があったんだ、『悪夢の根源を捜して解放しろ』ってね…」
生霊となって夢をさまよい続けるアイコを人間に戻す方法は2つ。
ひとつはアイコ自身が目を覚ますこと。そしてもうひとつは、永遠の眠りにつくことだった。
アイコの魂を葬送する準備を始めるディオを、押し留める鬼太郎。
「彼女の夢に入ります、もし僕が負けたときは、彼女を送ってあげて下さい」
鬼太郎は、アイコの「夢」に向かって走り出した。





一方、話を聞いた悪魔くんの判断は、即刻お祓いであった。
「メリーさん」の正体は恐らく「メア」。
古英語で「悪夢」を意味する名を持つそれは、文字通り悪夢を食べる悪魔である。
悪魔が生霊にとり憑き力を与えた結果が「メリーさん」らしい。
早速お祓いをすることになった祐子たちは、勇樹と綾音に伴われてサンタマリア教会へ集合する。
教会の前で合流し無事を喜び合ったその時、どこからともなくオルゴールの音色が響き、夏の青空が一瞬にして雷雲で覆われた。
稲妻の光の中に浮かび上がる少女の姿。アイコである。
「あなたも羊になりなさい。私がずっとかわいがってあげるわ」
子供たちを捕らえようとするアイコを危ないところでかわし、教会の中に避難した一行を強烈な脅かしが追う。
絶望と恐怖がピークに達したとき、悲鳴が響き突然全ての物音が止んだ。
窓から見えるのは青空、さっきまでの悪夢が嘘のようだ。
「みんな、悪魔はやっつけたよ!ここを開けて!」
鬼太郎さんだ!恐怖から解放された反動で、ドアに飛びつく祐子たち。
開かれたドアの向こうにいた者は、満面の笑みを浮かべたアイコだった。




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